研究概要 |
本研究は、筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)を介護した家族のエンパワメントを促進する支援プログラムの開発を目指す。こうしたプログラムの必要は、ALS患者の長期療養・介護をしいられるなかで、家族が体調を崩し、死別後もその悲嘆を引きずり、記憶の断片化などの障害を引き起こすためである(村岡,2007)。ALSという病気が家族にもたらす影響は多大であるが、ピアカウンセリングを受ける機会は少なく、自助グループの限界も報告されている。ALSの介護者が、身体的心理的問題を長期的に抱えないために、安全で良質なケアシステムを組織化し提供することは急務である。 そこで、申請者は平成20年度において、家族介護者12名ヘインタビューを実施し、質的記述的手法を用いて分析した。その結果、介護者は2年から16年に及ぶ介護の過程で<自己の取り戻し>という作業を行っていた。介護者にとってもっとも重要な関心事は、適切な介護技術を身に付けるだけでなく、患者の生きがいをともに見いだすことだったが、そのためには自分が余裕をもつことが大切であった。<自己の取り戻し>は、まず一人になる時間を設定し、たとえば30分であってもベッドサイドから離れて犬の散歩をすること、ガーデニングなどの趣味をもつといった努力としてあらわれた。また、患者会へ参加し他者と関わることによって社会における<自己>を再発見する努力がなされていた。インタビューの最後には、介護者だけの集まりを作ってほしいという要望が語られた。家族介護者は、自分のことよりもALS患者を優先しがちであり、慢性的ストレスを自覚しない傾向にあった。今後は、家族介護者同士の情報交換の場、専門的な立場から効率的ケアの方法について情報提供できる場を設定するとともに、インターネットを通じた相談などを考慮したプログラム開発の必要が期待される。
|