研究概要 |
I.はじめに:今年度は、ACT基準をみたした病院内のACTが長期入院の重症の精神障害者にどのようなに効果があるのかを明らかにし日本文化に適合したプロトコールを作成するため、まずパイロットテストを行った。 II.研究方法:1.対象者および調査方法:九州管内の私立K精神病院慢性期病棟に入院し、ACTの介入および調査に同意の得られた統合失調症患者5名(介入群)および類似した機能、病状をもつ統合失調症患者5名(対照群)を対象とした。退院1ヶ月前から退院後3ヶ月まで1ヶ月ごとに、病状、社会的機能、生活機能をBPRS, GAF, LSPを用いて評価し、統計学パッケージHALWIN, VbL5.0を用いて、ピアソンの相関関係、2群間のT検定を行った。また介入内容についてはACT記録を参考にし、質的に分析を行った。2.研究の倫理的配慮:研究への参加は自由意志であること、途中で中断することができること、また本調査の結果は、本研究の目的以外に用いられないことを伝え同意を得た。また本研究の内容については、熊本大学医学薬学研究部ならびにK病院の倫理委員会の倫理委員会で承認を得て実施した。 III.結果:対象者5名の平均年齢は39.67才、発症からの期間は22.5年、男性1名、女性4名、単身生活者3名、家族との同居2名だった。退院前のBPRS40.67,LSP86.0,GAF30、退院後3ヶ月まで有意な変化はみられなかったが、LSP, GAFの上昇がややみられていた。退院3ヶ月後までの再入院はみられなかった。ACTのFidelity Scaleは3点、ACTの構造についてはアメリカ合衆国におけるACTの実践基準に従って介入を行った。介入記録の質的分析においては、退院1ヶ月までの訪問回数が平均5.6回、退院1ヶ月をこすと3.5回/週、2.3回/週と減少していた。また訪問以外の電話の件数は退院1ヶ月まで1週間に21,3回、しかし2ヶ月、3ヶ月後には7.4回、3.5回と減少していた。また対照群5名の平均年齢は42歳、発症からの期間は22年、男性2名、女性3名で、単身生活者2名、家族との同居3名だった。介入群の調査実施1ヶ月前はBPRSは、平均42.00、LSP84.11,GAF35,でその後、1ヶ月ごとの3ヶ月間は有意な変化はみられなかった。また介入群と対照群のBPRS, LSPGAFに有意な差はみられなかったが、プログラムへの満足度において、有意な差がみられていた。さらに、ケアの質的分析において、対照群に最も多く出現していたカテゴリーは<病状の管理><活動と休息のバランスへの介入><孤独と人とのつきあいのバランスへの介入>がもっとも多くみられており、院外におけるリハビリテーションの促進や地域生活の促進を目標とした記録はほとんど出現していなかった。 IV.考察:精神病院を中心としたACTに関する評価においては、ACTを実施することでこれまで再入院を繰り返していた重症の精神障害者が退院後3ヶ月間、地域で生活できることが明らかになってきた。またACT開始1ヶ月は、電話、訪問回数が増えるものの、それ以降は危機介入の頻度が減少し、安定した生活が送れているとも考えられた。今回民間の精神病院を中心としたACT実践は、ACTの基準にそって介入していくことで成果をあげることができたといえよう。次年度は対象者数を増やし結果の一般化を試みていく。
|