研究概要 |
本研究の目的は,中等度から重度認知症高齢者とのコミュニケーションを促進するために,非言語的コミュニケーション能力に配慮した「声かけプラン(以下,プラン)」使用の効果を検証するとともに,適切な療養環境音の調整について検討することであった. 初年度は,認知症高齢者とのコミュニケーションに関する海外文献を再度検討し問題を明確化するともに,介護老人福祉施設利用高齢者7名(男性3名,女性4名)を対象にプランを作成した.但し,最終的には,介入期間中に入院や認知症の急激な進行を認めた3名を除いた4名(不穏,興奮状態2名と意欲低下のある2名)とプランを作成しないコントロール2名を評価対象とした. ケアスタッフがプランを3ヶ月間使用した後,スタッフと研究者で高齢者の状態(精神機能障害評価(MENFIS),野村による日常生活状況,日常生活における苛立ち事数)を評価した. その結果,全員の精神機能評価得点に変化はなかったが,不穏・興奮2名の日常生活状況得点(コミュニケーションや落ち着き)に有意差(p<.05)を認めた.意欲低下2名やコントロール2名の日常生活状況,苛立ち事には有意な変化が認められなかった. 療養環境音に関して,通所介護サービスを利用する日常生活自立度II〜IVの認知症高齢者5名を対象に3種類(クラシック,ロック,唱歌)の音楽の好みと生体反応(血圧,脈拍)を調査した.認知症が重度であっても音楽の好みを表現でき,長年のライフスタイルが好みに影響すること,降圧剤内服者では,外見上,客観的に表情,言動,行動に何ら変化が認められないにも関わらず,音楽開始から最中,終了後と生理的変動を超えた血圧の変化が認められた.このことから,認知症高齢者では,日常生活援助場面において訴えがなくとも注意深い観察が非常に重要であることを再確認した. 以上より,来年度は,初年度に引き続きデータを補完するとともに,研究成果の報告,研究総括を行う計画である.
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