我が国でのクロマグロの養殖は、幼魚を2-3年間飼育したもので、小型のマグロである。我々の行なった調査では魚介類の基準である総水銀としての0.4ppmを越えるマグロの赤身肉(刺身)は極めて少なかった。その理由として、市販されている養殖マグロ魚体が小さいことが挙げられる。近年、某大学はマグロの魚卵からの完全養殖マグロに成功し、そのマグロが市場で販売されている。この赤身肉の総水銀濃度を分析したところ、検査したものすべてが水銀の基準値を越えており、平均は0.65ppmであった。PCBなどの有機塩素系化合物についても分析したが、トロの揚合にはPCBの基準である0.5ppmを越えるものが多数認められたが、完全養殖マグロの場合では基準よりかなり低い値であった。これらの結果は、養殖マグロの水銀とPCBの汚染度は餌に含まれている水銀とPCB濃度により強く影響を受けていることを示唆している。水銀は赤身で高く、PCBはトロで高い値で、両汚染物質の分布には脂肪含量が影響していると思われる。 水銀は海生生物の肝臓に蓄積するが、脂肪の多い組織には蓄積しない傾向がある。このことを証明するため、脂肪を肝臓に蓄積しているサメの肝臓と筋肉の水銀濃度を分析した。未成熟のサメの場合には筋肉中の水銀濃度は肝臓より高く、一方、成熟したサメの揚合では肝臓での水銀濃度が顕著に高いものが認められた。水銀は加齢とともに蓄積する典型的な汚染物質であるが、肝臓への蓄積には脂肪含量が影響していると思われる。
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