研究概要 |
人体にとって有害なヒ素の土壌汚染は世界的に問題となっており、我が国においても、ヒ素が環児中に広く分布していることから、農作物におけるヒ素の汚染が危惧されている。特に、近年、消費者レベルまで浸透している安心・安全な食品と言った観点からも、ヒ素による農作物の汚染回避を目指した取り組みは急務である。最も単純且つ効果的な対策として、ヒ素で汚染された土壌環境の修復が検討されており、これまで、植物を活用するファイトレメディエーションによるヒ素汚染土壌の浄化技術の開発が試みられてきたが、植物がヒ素を蓄積するメカニズムは未だ明らかにされていない。そこで、本研究では、生きた植物中での物質動態を可視化できる植物ポジトロンイメージング法(PETIS)による植物中でのヒ素の吸収・蓄積の動態解析を実現するために、ポジトロン出核種ヒ素トレーサーを製造し、植物におけるヒ素の吸収・蓄積の動態について検討することを計画した。ポジトロン放出核種ヒ素トレーサーの開発では、半減期の長いAs-73,74をGe (p,xn)反応を用いてGeO_2ターゲット中に生成させた。ターゲットの溶解後、溶存化学種とpHの関係を利用した化学分離により、ターゲットから放射性ヒ素を回収した。その結果、回収率は低かったものの、照射副生成物であるSe-75の混入もなく、放射性核種的及び化学的純度の高いヒ素トレーサーの調製に成功した。さらに、得られたAs-73及びAs-74トレーサーを用いて、植物のヒ素吸収実験を行った。その結果、バイオイメージングアナライザーによるオートラジオグラフィ計測から、PETISを用いたポジトロン放出核種ヒ素トレーサーの非侵襲的なインビボイメージングの可能性が示された。
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