研究概要 |
我々は乳幼児期の睡眠覚醒リズムの発達について研究を行ってきた。乳児期には、睡眠が夜間に集中し、覚醒が日中に集中するようになる。2歳児以降、児童期前(6歳)まで、夜間睡眠はほとんど変化しないが、日中の睡眠、つまり昼寝は、非常に顕著な変化を示す。つまり、1歳児では午前と午後にそれぞれ1回(1日2回)の昼寝が生じるが、2歳までに午前の昼寝は消失し、3歳から5歳までに午後の昼寝も消失して、児童期までに日中に明晰な覚醒状態を維持できるようになる。ところが、このような睡眠覚醒リズムの発達と矛盾するようなスケジュールが日本の保育所では実施されている。日本の保育所の多くでは、幼児本人の昼寝の必要性とは無関係に3歳から5歳の幼児に午後の長い昼寝が課されている。この昼寝の日課により、保育園児の夜間睡眠の就床時刻は、昼寝の日課のない幼稚園児よりも統計的に有意に遅く、起床時の機嫌の悪さや登園への渋りの頻度も幼稚園児よりも有意に顕著である。我々の研究から、こうした症状は日中と夜間の睡眠・覚醒のサーカディアンリズムの障害に基づいていると考えられる(Fukuda & Sakashita, 2002)。さらに、我々の研究(Fukuda & Asaoka, 2004)では、保育園児の「夜更かし傾向」は、小学校に入学した以降も、3, 4年生まで継続し高学年でようやく元幼稚園児と同様のレベルに到達する。つまり、幼児期に課された睡眠覚醒習慣がその日課がなくなった後も数年間にわたって影響が残存する。以上の研究は「睡眠表」を用いて行われたものである。ActiwatchRを用いて活動リズムの計測を行い、夜間睡眠や睡眠覚醒リズムがどのような影響をうけているかをより定量的に調べることにより、幼児期の睡眠覚醒リズムの発達に及ぼす「人工的昼寝」の影響がより詳細に明らかになる。本研究は、幼児期の睡眠覚醒リズムの発達を定量的な方法(活動リズムの計測)を用いて計測し、睡眠覚醒リズムの発達に及ぼす、日中の仮眠(昼寝)の影響を調べることを目的とする。
|