研究概要 |
本研究では、睡眠障害の発症にかかわる神経生理学的基盤を理解するため、オレキシン、グレリン、NPY、モチリンなど摂食調節ペプチドの睡眠覚醒調節への関与を検証した。さらに、睡眠障害への液性および神経生理学的機構を明らかにするために、遺伝子操作によりドパミン神経系に異常を持つマウスの睡眠様式を解析した。平成19年度は以下の2つの成果を得た。 1)モチリンの睡眠覚醒に及ぼす効果を脳波・筋電図電極と第3脳室に薬剤投与カニューレを慢性的に装着した正常雄ラットを用いて検証した。脳波・筋電図の連続記録から覚醒,ノンレム睡眠およびレム睡眠の3状態を判定し睡眠データとした。モチリン(1,10,50,100 nmol)を環境の明期にラット第3脳室内へ5時間かけて持続投与すると、モチリンは100 nmol投与で有意な覚醒量の増加が見られた。グレリンは10nmol投与で覚醒作用を発現することがすでに判明している。また、オレキシンは5nmolの投与で覚醒作用をもつことをすでに報告している。本研究で、摂食ペプチド類が睡眠覚醒調節に関与することが明らかとなった。 3)ドパミン神経変性疾患によるヒト・パーキンソン病(PD)においても睡眠障害が知られている。レム睡眠行動異常症(RBD)がPDの症状を発症する前段階で出現することに着目した。α-syncreinトランスジェニックマウス(Tg)は野生型に比べて黒質ドパミン神経細胞が約半数に減少している。脳波・筋電図電極を慢性的に装着したTgマウスでは睡眠覚醒の各ステージにおける持続時間が減少していることが判明した。さらに、ヒトPD治療に使われるL-DOPAやペルゴリドに対するTgの反応性を検証したが、統計的有意な変化は検出されなかった。さらに、RBD様の現象は確認できなかったことから、このマウスにおいてPD動物モデルとしての有用性は今のところ不明である。
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