サーカディアンリズムは、時計遺伝子群の相互作用によって駆動されている。我々は、時計遺伝子の一つであるClockが変異したマウスでは、体温や睡眠覚醒リズムが夜型を呈することを明らかにした。今年度は、この夜型モデルマウス(=Clock遺伝子変異マウス)を用いて、Clock遺伝子が学習・記憶能にどのような役割を持っているかについて検討をおこなった。行動試験としては、オープンフィールド、モーリス水迷路、受動的回避行動をおこなった。さらに、海馬における各種神経伝達物質の放出量について、脳内微小透析法を用いて測定をおこなった。その結果、夜型マウスは野生型に比べ、新規空間での運動量および探索行動が多いこと、モーリス水迷路の学習成績が悪いこと、受動的回避行動には差がないこと、海馬内アセチルコリン放出量が少ないこと、が明らかとなった。オープンフィールドにおける探索行動やモーリス水迷路の空間学習には海馬が重要な役割をしており、さらに、その海馬機能にはアセチルコリン系神経群が必要不可欠であることが報告されている。一方、受動的回避行動には、扁桃体などの情動系が深く関わっていることが知られている。今回の結果は、時計遺伝子群が、海馬におけるアセチルコリン放出を介して記憶学習能、特に空間認知機能に関与している可能性を示唆している。 しかしながら、記憶学習能にサーカディアンリズムが存在するのか?そして、そのリズムに時計遺伝子が関与しているのか?夜型マウスは、学習能のリズム位相も遅れているのか?など、多くの疑問が残されている。次年度は、まず、記憶学習といった高次脳機能のサーカディアンリズムを、野生型マウスを用いて検討する。さらに、時計遺伝子に異常をきたしたマウスにおける記憶学習能およびそのリズムについて比較検討をおこなう。また、時計遺伝子がどのように海馬のアセチルコリン放出に関わるか、その分子機構についてさらに研究を進める。
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