[目的] 近代社会の発展に伴い意図的・非意図的に環境中に放出された化学物質(環境化学物質)が、近年のアレルギー疾患患者急増に関与している事が懸念されている。我々は複数の環境化学物質が酸化ストレス作用を介してTh2型免疫を増強し、アレルギー性疾患の増悪に関与していることを明らかにしてきた。この様なTh2型免疫の増強は、免疫応答を負に制御するCD4+CD25+制御性T細胞の機能低下によってさらに増幅される事が考えられる。そこで本研究では環境化学物質のCD4+CD25+制御性T細胞機能に及ぼす影響を解明し、アレルギー疾患の増悪に関与している可能について検討する。 [現在までの研究成果] 1.環境化学物質トリブチル錫(TBT)を6umol/kg経口投与することにより、気道過敏症が増悪された。この投与量で脾細胞、腸管膜リンパ節細胞、末梢血細胞の細胞内グルタチオン(GSH)レベルは有意に低下していたことから、酸化ストレスを誘導していることが示唆された。一方、気道局所の酸化ストレスは気道炎症を増悪することが知られているが、この投与量では肺のGSHレベルは低下していなかった。 2.TBT投与マウスの脾細胞を回収し、抗原提示細胞としてOVA特異的TCRトランスジェニックマウス由来のナイーブCD4T細胞を刺激するとTh2細胞への分化が促進されていた。 3.TBT投与マウスにアレルゲン特異的Th2細胞を移入し、アレルゲンで曝露した場合に誘導される気道炎症の程度は、未投与マウスのそれと比較して優位には増悪されていなかった。 以上の結果から、環境化学物質TBTは酸化ストレス作用を介して、抗原提示細胞のTh分化誘導作用を修飾しナイーブT細胞からのTh2細胞へ分化を促進すること、その際にナイーブT細胞の活性化を抑制するCD4+CD25+制御性T細胞の機能を抑制することで、Th2分化を更に促進している可能性が示唆された。即ち環境化学物質はアレルゲン感作期におけるTh2型免疫の成立に寄与することで、アレルギー疾患の増悪に関与していることが示唆された。
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