研究概要 |
(背景)報告者は、牛乳に含まれる蛋白の中で、最もアレルゲン活性の高いβ-ラクトグロブリンに通電処理を行うと、陰極側でアレルゲン活性が著しく低減化されることを見いだしている(特願2005-020909)。SDS-PAGE解析から、この現象は蛋白多量体化と関連しており、アレルゲン性減弱化は多量体化に伴って生じる蛋白高次構造変化に起因すると想定した。 (目的)通電によって生じるβ-ラクトグロブリン蛋白高次構造変化を調べる。 (方法)今年度に行った解析は、ゲル濾過クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、ペプチドマッピングである。 (結果および考察)(1)ゲル濾過クロマトグラフィーによって、β-ラクトグロブリンは天然状態では2量体として存在していることが分かった。還元作用をもつ緩衝液を加えてSDS-PAGE分析すると、通電前、通電後の陽極側で得られる蛋白は単量体化したが、陰極側では2量体のままであった。陰極側でみられる2量体は、天然状態においてみられるジスルフィド結合とは異なる機序で成り立っていると考えられた。(2)β-ラクトグロブリン単体を陰イオン交換クロマトグラフィーで精製したところ、2本のピークがみられた。各ピークを、質量分析装置を用いて分子量測定したところ18,277と18,364であり、β-ラクトグロブリン蛋白のバリアントBおよびAの分子量に合致した。(3)通電前溶液中の単体および陰極側溶液中の単体、2量体から、各々バリアントBと思われる部分を採取してペプチドマッピングを行った。その結果、溶出前半ピークは完全に一致し、3種類の蛋白のアミノ酸配列は全く同じであることが確認された。溶出後半ピークをみると、通電前に比べ陰極側蛋白のピークが幅広くなっており、何らかの化学的修飾を受けていると考えられた。 (結論)β-ラクトグロブリンに通電処理を行うと、陰極側では何らかの化学的修飾を受け、ジスルフィド結合とは異なる2量体を形成することが分かった。
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