生命・医療倫理領域の課題のうち、平成18年度は倫理的規範としばしば対比される「法的規範」、および医療にとどまらず保健、福祉の関連領域にも問題意識が共有される「ターミナルケア」を中心に取り上げた。その大きな理由は2006年3月に報道された、射水市民病院におけるターミナル患者からの人工呼吸器取り外し事例が司法の介入を見たことで、延命措置中止における法的な規範の乏しさがあぶりだされたことにある。 兵庫県立総合リハビリテーションセンターの臨床現場でターミナルケアに取り組む職員等との協力により、病院や福祉施設に共通してターミナルケアへの意識喚起とともに、逡巡や消極的態度の併存が確認された。そして、ターミナルケアに対するニーズの高まりに制度的な担保が追いつかず、現場では倫理的判断への迷いや緊張感が負担となっている現況を明らかにした(人間学研究22:17-25)。さらに、倫理的判断を助言・検証するプログラムとして、機関外委員による倫理コンサルテーションが有用である可能性を指摘した(神経内科66:499-500)。 次いで、法規則との関連で倫理的課題の再構築を試みた。なぜなら、医療従事者が法的追及を恐れて十分な延命治療を行わなかったり、逆に患者の望まない延命治療を続けたりする可能性が顕わとなったからである。法的規範の乏しさと倫理的判断の困難さに直面して、法や規則の整備による解決を望む対処モデルでは、結果として直裁的な処遇がもたらす官僚主義的な問題を避けられない。このことを、他の医療現場に先駆けて法規則が広く行為規範となっている臨床精神医学との比較において明確化した(投稿審査中)。時間的余裕を与えられない中で常に選択を迫られ続ける医療従事者の視座においても、公権に基づく法に対峙し、動機の純粋性を追求して個人の自律に委ねる倫理の存在意義は曲げられない。
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