本研究の目的は、真に有効な技術倫理とその教育のあり方を伝統文化との関連から究明し提案することであり、主な研究成果として以下のような5点を得た。1)日本と欧米の工学教育の歴史的比較分析と技術倫理あり方の研究に関して、明治初期に英国から招いた工学教育者によって構築された我が国の工学教育が、基礎研究から実践を含む体系的かつ総合的な技術者育成プログラムとして極めて優れたものであり、我が国の工業の驚異的発展を招いたことと、“技術は人なり"という教育思想を生んだことを明らかとした。2)我が国の組織的責任という伝統に基づく技術倫理のあり方の研究に関して、我が国は伝統的に組織が責任を持つという思想があり、企業や組織が社会に対して責任を約束するという枠組みの「コンプライアンス」の概念が適し、構成員は当該組織が決めた「行動規範」に従うという枠組みが適することを明らかとした。3)文化を共有するアジア諸国との連携に基づく技術倫理教育の調査研究に関して、我が国の文化は欧米とは差異が大きいが、アジア内でも様々な宗教に基づく文化の違いがあり、儒教文化圏は極東に限られることが明らかとなり、更に研究の必要なことが判明した。4)東アジア工学アカデミーの連携を活用した技術倫理教育の交流に関して、アジアの発展途上国では技術倫理を云々する前のモラル教育の必要性が明らかとなり、更に交流を進めることとしたい。5)e-LearningプラットフォームWebELSの技術倫理教育への応用の研究に関して、我々が開発した汎用e-LearningプラットフォームWebELSが技術倫理教育のコンテンツ共有に有用であることが実証できた。今後、これらの成果をベースとして、特にe-learningプラットフォームWebELSを活用した技術倫理を含んだ科学技術高等教育の生涯教育への展開を行うこととしたい。
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