光合成原核生物である陸棲ラン藻Nostoc commune(和名:イシクラゲ)を研究材料とし、本生物が示す極限的な乾燥耐性の分子機構を細胞内の要素に着目して研究した。陸棲ラン藻は、本来水中に生息していたラン藻が陸上に生活圏を広げて過酷な環境に適応して生きているため、乾燥、凍結、熱など、多くの環境ストレスに対して極限的な耐性を示すユニークな生物である。これまでの研究では、陸棲ラン藻が自ら合成し細胞の周囲に分泌している細胞外多糖類が乾燥耐性に必要であることを明らかにしている。平成18年度には、乾燥時に水の代わりとなって細胞内部の生体膜やタンパク質の構造を維持する適合溶質について解析を行なった。本研究経費によって購入したエバポレイティブ光散乱検出器を現有している高速液体クロマトグラフに接続して無標識のトレハロースを直接定量できるようにした。乾燥状態のN.communeからの抽出物中にはトレハロースが高いレベルで検出され、乾燥時に適合溶質として機能していることが示唆された。吸水するとトレハロースのレベルは低下し、水和したN.communeではトレハロースが検出されないことから、吸水によって呼吸基質としてすみやかに消費される機構があると考えられる。現在、トレハロース加水分解酵素およびトレハロース合成酵素の活性変動を解析している。また、細胞外多糖類の機能をさらに調べるために、細胞外多糖類をもつ水棲ラン藻Nostoc verrucosum(和名:アシツキ)が示す環境耐性をN.communeと比較した。その結果、N.verrucosumは、N.communeと同様の凍結耐性を示すが、乾燥耐性を示さないことが分かり、細胞外多糖類の有無は極限環境耐性を示すための必要条件の1つでしかないことが明らかとなった。
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