研究概要 |
陸棲ラン藻Nostoc commune(和名:イシクラゲ)が示す極限的な乾燥耐性の分子機構を細胞内で働いている要素に着目して研究した。平成19年度は,乾燥時に水の代わりとなって細胞内部の生体膜やタンパク質の構造を維持するトレハロースの蓄積機構を明らかにするために,トレハロース合成酵素およびトレハロース加水分解酵素(トレハラーゼ)の活性制御を解析した。全ゲノム配列が決定している糸状性ラン藻Anabena sp.PCC7120では,グルコースのポリマーであるオリゴマルトデキストランやグリコーゲンからトレハロースを合成するTreY/TreZ経路の酵素遺伝子treZ,treY,およびトレハラーゼの遺伝子treHがひとつの転写単位を構成していることが既に明らかとなっている。陸棲ラン藻においてもこれらの遺伝子は遺伝子クラスターを構成しており,乾燥ストレス処理によって転写産物量は大きく変化することはなかった。トレハロース合成酵素は反応溶液中の塩濃度に影響されず高い活性を示したが,トレハラーゼは塩濃度の上昇に伴って活性が阻害されることが分かった。乾燥ストレスにさらされた細胞がトレハロースを蓄積する際にトレハラーゼが鍵酵素として働いており,溶質濃度の上昇に伴ってその活性が阻害されることが重要であることが示唆された。また,細胞外基質に存在する可溶性タンパク質を解析した。細胞外基質中に存在するβ-D-グルコシダーゼを精製しアミノ末端配列解析を行なったところ,ファシクリンタンパク質と相同性を示すことが分かった。既に細胞外基質に特徴的なタンパク質として知られている水ストレスポリペプチドを精製し酵素活性を調べたところβ-D-ガラクトシダーゼ活性を示すことが分かった。現在,これらのタンパク質の機能解析を進めることにより細胞外基質の役割を研究している。
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