研究課題
基盤研究(C)
高温環境下でも利用可能な薬剤及びその薬剤耐性遺伝子を用いた遺伝子破壊系の構築を行った。一般的に細菌などに対して用いられている薬剤耐性遺伝子の発現産物は耐熱性を示さないため超好熱菌に対しては利用できない。そこで抗生物質として競争阻害効果のあるものに注目し、シンバスタチンの利用を検討した。HMG-CoA redactaseは細菌や始原菌において、酢酸から多種多様な骨格をもつイソプレノイド化合物を合成するのに必要な鍵酵素であるが、特に始原菌においてイソプレノイドの合成は細胞膜脂質の構築に必要であることから生命維持に必須である。一方、シンバスタチンはHMG-CoA redactaseの強い競争阻害剤であることが知られている。そこで、85℃における最小生育阻止濃度を調べたところ4マイクロMシンバスタチンでThermococcus kodakaraensisの生育が完全に阻害されることが確認され、本薬剤が高温環境で利用可能であることが判明した。次にPromoterとして本菌由来glutamate dehydrogenase遺伝子の上流領域を用いたHMG-CoA reductase遺伝子の大量発現カセットを設計した。このDNAカセットを選択マーカーとし遺伝子破壊用プラスミドを構築した。アミロプルラナーゼ遺伝子(apuTk)及びsugar transporter遺伝子群(malTk)の破壊を試みた。形質転換を行い、4マイクロMシンバスタチン存在下で薬剤耐性を示す株を選択することにより目的の遺伝子破壊株が取得できた。さらにそれぞれの破壊株のさまざまな糖における増殖特性を調べた。アミノ酸培地及び、あるいはピルビン酸培地では野生株と同等の生育を示したのに対し、malTk破壊株はマルトオリゴ糖及び多糖で増殖が認められなかった。apuTk破壊株はプルランでは生育出来なかっただけでなく、アミロースにおいても生育速度が低下し、apuTkは本菌株における主要な多糖分解酵素であると考えられた。さらに興味深いことに、ほとんどのマルトオリゴ糖に対してapuTk破壊株は増殖を示したものの、特により短い糖鎖で増殖が低下した。このことはapuTkが細胞表層で糖の取込みに関与している可能性が示唆される。
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