研究概要 |
1.平成20年度においては,18〜19年度の疫学研究倫理指針改訂に引き続き,臨床研究倫理指針の改訂を検討する専門委員会において自らの意見を検討する機会を得た.(1)診療のために採取・摘出された組織,細胞などを研究に用いる際の既存試料の問題に関して臨床研究指針は疫学研究指針の規定を踏襲した.私見では,包括同意に加えて,予定・実施中の研究に関して情報を公表するとともに,自らの試料の研究利用を拒否したい患者の希望に応じる仕組みの構築が望ましいと考えるが,指針間のルールの統一を求める意見が多勢であった.しかし,私見の線に沿って制度を構築する大学病院もみられた.(2)対象者が未成年である場合の同意に関して,私見はこれまで,16歳以上の者について,倫理審査委員会の承認を条件として,本人の同意のみで研究を実施できる可能性を個別に認める疫学指針のルールを臨床指針にも採用することが適切と考えてきたが,パブコメにおいて現行法の枠内で臨床研究についてそこまで踏み込むことに対する疑問が複数出され,指針ではむつかしいことを悟った.法と指針の差異を指摘頂いた意見に感謝する. 2.近年,ゲノム研究において,個人のゲノムの塩基配列のすべてを解析する研究の実施や計画が増えてきた.このような研究の多くにおいて,インターネットを用いた解析結果の研究者への提供ないし一般的な公表が実施・予定されている.このようないわゆるwhole-genome研究に付随する倫理的法的問題について,欧米の議論を参照して検討した.結論的には,全塩基配列の解析と解析データ公表の意味・危険が明確に分かっていないため,十分な情報提供にもとづくインフォームド・コンセントを得ることは困難で,また,データ公表は原状復旧になじまない.そのような状況では,倫理委員会等のガバナンス体制がICを補足する仕組みをとらざるを得ず,その強化が急務となる.
|