がんの末梢神経浸潤による神経障害性疼痛の動物モデルを作成し、惹起される自発痛に対する各種薬物の効果を検討した。がん細胞はMethA sarcoma細胞を使用し、マウスの鎖骨神経近傍に接種した。がんの末梢神経浸潤は細胞接種時に神経鞘膜に微細な切開を入れることにより誘発した。接種後2週間では、腫瘍塊の発育に伴い、病理組織学的にがん細胞の神経内浸潤が認められ、下肢挙上で示される自発痛がみられた。薬物の効果は、確立した疼痛に対する鎮痛効果の他に疼痛が出現する以前から投与し、疼痛出現の予防効果を検討した。抗けいれん薬のギャバペンチン、クロナゼパム、中枢神経性筋弛緩薬のバクロフェン、抗うつ薬のアミトリプチリン、NMDA受容体拮抗薬のケタミンは鎮痛効果を示したが、行動量減少などの副作用の出ない投与量では疼痛行動を完全にブロックできなかった。また、検討した薬剤のなかでケタミンのみ疼痛出現に対する予防的効果を示した。前年度の結果ではオピオイド性鎮痛薬のモルヒネは通常量では鎮痛効果が見られなかったものの、高容量では不完全ながら鎮痛効果がみられた。以上の結果から、本モデルにおける自発痛は臨床でがん性疼痛に用いられる鎮痛薬および鎮痛補助薬では鎮痛効果は不十分であり、臨床で見られるがん浸潤による神経障害性疼痛を反映していると考えられた。本モデルは新たながん性神経障害性疼の治療薬の開発に有用と考えられた。
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