【目的】 内臓痛をきたす疾患には、腫瘍や炎症など明らかな病変のある器質的なものと、明らかな病変のない機能的なものがあり、後者にはFunctional Dyspepsia (FD)や過敏性腸症候群(IBS)が含まれる。近年、ラットへのmaternal separation(母子分離ストレス)やWA (water avoidance)ストレスによって腸に痛覚過敏が起こることが報告され、過敏性腸症候群のモデルとして提唱されたが、これらのストレスが胃の痛覚に及ぼす影響は未だ明らかでない。そこで本研究ではストレスが胃の痛覚に及ぼす影響を調べ、機能性胃腸症のモデル動物の作成を試み、その痛覚過敏に関連する因子を解明することを目的とした。 【方法】 maternal separationを行った動物と通常飼育した動物の胃の痛覚を比較検討した。また、water avoidanceストレスを加えた動物の胃の痛覚の変化を検討した。 【結果】 maternal separationを行った動物では通常飼育群と比べて胃の痛覚に変化は見られず、WAストレスを加えても変化が見られなかった。 成熟した動物に7日間ストレスを加えた後、ストレスのない状態で飼育すると8日目と10日目に明らかな胃の痛覚過敏が見られた。 ストレスによって亢進した胃の痛覚はCRFの拮抗薬であるα-helical CRFやASICsの拮抗薬であるamilorideで抑制された。ストレスによる胃の痛覚過敏にはCRFや、ASICsが関与していると思われる。 【結論】 繰り返しWAストレスは遅発性の胃の痛覚過敏をおこした。これまでストレスによって胃の痛覚過敏を示した報告は無く、本研究は、機能性胃腸症のモデルとして有用と思われた。 繰り返しWAストレスによる胃の痛覚過敏にはCRFやASICsが関与しており、これらを踏まえた機能性胃腸症の治療法の開発が重要と思われた。
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