生後発達に伴って脊髄痛覚回路の形成および機能確立が如何にして行われるかを明らかにするために、1)幼若および成熟ラットから脊髄スライス標本を作製し、痛みを伝えるAδ線維やC線維、触覚を伝えるAβ線維誘起のシナプス応答を脊髄後角表層および深層の細胞から記録・解析した。2)In vivoパッチクランプ法を用いて、幼若、成熟ラット脊髄後角から皮膚への生理的痛み刺激に対するシナプス応答を解析した。その結果、成熟ラットでは、痛みの伝達やその調節に重要な役割を果たす脊髄後角表層、膠様質において、Aδ線維やC線維を介した単シナプス性の興奮性シナプス後電流(EPSC)が観察された。後角深層細胞では主に、Aβ線維を介した単シナプス性EPSCが誘起された。一方、幼若ラットでは、Aδ線維やC線維の入力に加え、多くの細胞でAβ線維を介した単シナプス性EPSCが見られた。In vivoパッチクランプ法による解析では、幼若および成熟ラットにおける膠様細胞は共に機械的痛み刺激に対してEPSCの発生頻度と振幅が著明に増大した。成熟ラット深層細胞は主に触刺激によってEPSCを発生した。一方、Aβ線維からの単シナプス性入力のみを受ける幼若ラット膠様質細胞においても、機械的痛み刺激によってEPSCの発生頻度と振幅が著明に増大した。 以上より、幼若期ではAδ線維やC線維に加えAβ線維が脊髄膠様質に興奮性にシナプス入力し、機械的痛み情報を伝達する。成熟に伴ってAδ線維やC線維のみが膠様質に痛みを伝え、Aβ線維は後角深層に非侵害性の触を伝える、即ち、成熟に伴い洗練された線維選択性を備えた痛覚回路が形成される事が明らかになった。
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