研究概要 |
臨床においては下顎神経支が侵されるものが最も多く、下歯槽神経切断により顔面の広い領域に痛みが認められ、その痛みは年を経るにつれて強まる傾向があることが知られている。このことから加齢に伴う三叉神経痛の増悪メカニズムを明らかにすることは臨床上重要である。そこで今年度はまず、若齢ラットの下歯槽神経損傷により三叉神経脊髄路核尾側亜核における侵害受容の過敏変化に伴う髄膜ならびにグリア細胞の形態変化ならびにこれらの細胞が産生する生理活性因子の発現動態を解析した。下歯槽神経の切断1週間後より下顎領域への機械刺激に対する過敏性が認められるようになった。切断1週間後では神経切断側の三叉神経脊髄路核尾側亜核において,サブスタンスP陽性ニューロン数の増加や髄膜に近接したグリア細胞の活性化が認められた。即ち、抗Iba1抗体を用いた免疫染色により細胞体はやや肥大化し突起も退縮した活性化ミクログリアが集積することが明らかとなった。これらの活性化ミクログリアはリン酸化p38MAPキナーゼに対する抗体に対しても陽性反応を示した。一方、抗GFAP抗体を用いた免疫染色により肥大化した突起をもつ反応性アストロサイトの集積は髄膜に近接した領域に限局していることが分かった。反応性アストロサイトはリン酸化p38MAPキナーゼの発現はほとんど認められなかった。さらに神経切断側の髄膜はTNF-αならびにIL-1βなどの炎症性サイトカインを発現することが明らかになった。これらの結果は三叉神経痛の痛みシグナル伝達における「髄膜-グリア細胞連関」の存在を支持するものである。
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