前年度の研究により、下歯槽神経損傷により三叉神経脊髄路尾側亜核の髄膜においてIL-1βならびにTNF-αなどの炎症性サイトカインの発現が増大し、三叉神経痛の痛みシグナルを修飾している可能性が考えられる。そこで今年度はまずグルタミン酸を介した神経伝達が炎症性サイトカインによりどのような影響を受けるのかを検討した。三叉神経脊髄路尾側亜核からのニューロンの急性単離は成功率が低かったため今回は海馬からの急性単離ニューロンを用いて解析を行った。1週齢のC57BL/6マウスより麻酔下に摘出した脳より海馬スライス標本を作製し、細胞剥離器を用いて海馬ニューロンを機械的に単離した。次に、Yチューブ法により適用したNMDAにより惹起される電流をホールセルモードのパッチクランプ法により記録しIL-1βのNMDA受容体を介した反応に対する影響を解析した。NMDAは内向き電流に続き外向き電流を惹起した。このNMDAにより惹起される外向き電流はTEAならびにcharybdotoxinにより有意に抑制された。IL-1βはNMDAにより惹起される内向き電流に影響することなく外向き電流を用量依存的(10-100ng/ml)に抑制した。この抑制作用はIL-1受容体アンタゴニストであるIL-1Raにより拮抗された。一方、TNF-αにはNMDAにより惹起される外向き電流に対する抑制作用は認められなかった。以上の結果よりNMDAにより惹起される外向き電流はCa依存性Kチャネルを介するものと考えられる。さらにIL-1βは脱分極により惹起されるCa依存性Kチャネルを介した外向き電流も抑制した。Ca依存性Kチャネルはニューロンの興奮性を制御するうえで重要な役割を担っていることが知られており、IL-1βはCa依存性Kチャネルを抑制することでニューロンの興奮性を促進し、痛みシグナルを増強。している可能性が強く示唆された。
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