ダイノルフィン系の脊髄疼痛伝達機構において、NMDA受容体イオンチャネル複合体のポリアミン調節部位が重要な役割を担っていることを明らかにしている。しかしながら、NMDA受容体グリシン調節部位の疼痛伝達機構における役割については、ほとんど解明されてない。慢性疼痛機構の解明を試みる上でもグリシン調節部位の役割を解明することは必須のことと考える。従って、平成18年度はグリシン調節部位のパーシャルアゴニストであるD-サイクロセリンをマウスの脊髄クモ膜下腔内へ投与し、行動薬理学的に検討を行ったところ以下の結果が得られた。 1.D-サイクロセリン(100および300fmol)は、投与後5-10分をピークとする疼痛関連行動を誘発した。 2.D-サイクロセリン誘発性疼痛関連行動は、グリシン調節部位の拮抗薬である7-クロロキヌレニン酸をはじめとするNMDA受容体関連拮抗薬によって用量依存的かつ有意に抑制された。 3.D-サイクロセリン誘発性疼痛関連行動は、タキキニンNK1およびNK2受容体拮抗薬によっては全く影響されなかった。 以上の結果から、D-サイクロセリンは脊髄NMDA受容体イオンチャネル複合体上のグリシン調節部位に作用し、その結果この複合体の機能が亢進して疼痛関連行動が発現することが判明した。また、この疼痛関連行動の発現にはタキキニン受容体機構は関与しないことが判明した。 なお、上記に示した結果はJ.Pharmacol.Sci.(in press)に掲載される。
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