研究概要 |
有痛性糖尿病性神経障害は,糖尿病患者のQOLを損なう非常に大きな問題であるが,その機序については未だ不明な点が多い.抗欝剤,抗痙攣剤などが有効とされるが,その効果は十分でなく,より強力な治療法が求められている.一方,成人末梢血中に血管内皮前駆細胞が存在することが報告され,血管新生に新たな概念が生まれた.血管内皮前駆細胞は成熟動物における血管新生に関与することが明らかとなり,成人における血管新生の少なくとも一部には,血管内皮前駆細胞の成熟血管内皮細胞への分化という胎生期のような血管発生型の血管新生が関与すると考えられている.成人における血管内皮前駆細胞は,骨髄などの血球系幹細胞を多く含有する組織に由来しており,これらの細胞を応用し血管の再生を行う治療法は,特に虚血性疾患に対し積極的に臨床治験が進められており,良好な成績が報告されている.こうした前駆細胞を用いた細胞治療は,糖尿病性神経障害に対しても有効である.すでに我々は,糖尿病性神経障害で低下した末梢神経伝導速度および神経内血流の低下に対し,血管内皮前駆細胞による血管新生療法が有効かつ強力であることを証明している. 本研究において,我々は,臨床応用を目指し,血管前駆細胞を豊富に含む骨髄単核球による血管新生療法が糖尿病性神経障害による痛覚過敏に有効であるかSTZ糖尿病ラットを用いて検証した.その結果,骨髄単核球の後肢骨格筋への移植は,移植側の痛覚過敏を有意に改善するとともに,移植側の坐骨神経伝導速度,坐骨神経内血流を改善し,有痛性糖尿病性神経障害に対する新しい有効な治療法をなりうることを示した.骨髄単核球移植は,患者本人の骨髄を用い,体外の培養環境を使用することなく行えることより,すぐに臨床応用可能な方法として期待される.今後は実際に臨床応用し,安全性および有効性について確立していきたいと考えている.
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