一次求心性線維が損傷されると、末梢組織、後根神経節、脊髄において、神経化学的、構造学的な可塑的な変化がもたらされ、熱や機械刺激に対する痛覚過敏反応や接触や圧などの非侵害性刺激にまでも痛みを感じるアロディニアが誘発される。また、ポリユビキチン化されたタンパク質を認識し分解するプロテアソームの阻害剤を髄腔内投与すると、痛覚過敏反応やアロディニアが抑制され、ユビキチン-プロテアソーム系によるタンパク質の分解による痛覚制御を示唆するものであるが、その詳細は明らかではない。そこで、神経因性疼痛におけるユビキチン-プロテアソームシステムに関与する分子機構を明らかにすることを目的とした。 これまで、我々は、神経因性疼痛の発症には、脊髄後角の後シナプスにおけるグルタミン酸受容体のNMDAや神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の活性化が関与することを明らかにしてきた。そこで、L5脊髄神経切断マウスにおいて一週間後に形成される神経因性疼痛およびcomplete Freund's adjuvantの後肢への投与一日後による炎症性疼痛において、NMDA受容体NR1に対するユビキチンリガーゼであるFbx2、nNOSに対するユビキチンリガーゼCHIP、後シナプス肥厚部の主要なタンパク質であるPSD95に対するユビキチンリガーゼMdm2、および脱ユビキチン酵素のUCHL1とUsp14の発現変化を検討した。その結果、NR1に対するユビキチンリガーゼFbx2の発現が、神経因性疼痛では変化が認められないが、炎症性疼痛において有意に上昇していた。Fbx2は、NMDA受容体の活性化によってシナプスより細胞質や外シナプスへ移行したNR1をユビキチン化し、プロテアソーム系にて分解する。炎症性疼痛に伴うFbx2の発現上昇は、後シナプスにおけるNR1を減少させ、神経活動の減弱を導き、炎症性疼痛の治癒に関与している可能性が示唆された。
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