保健・医療の分野におけるリスク管理、特に科学的な不確実性が存在する状況下でのリスク対処、という問題は、各国政府が試行錯誤の中で苦慮しており、また理論構築の遅れている課題である。本研究は、健康リスクへの対処に関わる政策および政策決定システムの実態調査を通じて、日本・アジア・欧米における同リスクの管理・政策の現状についての比較実証分析を行い、規制科学ならびに政策科学分野における理論的発展と共に実際的政策提言を図ることを目的とする。 健康リスクに対処する政策(及び政策過程)、科学的不確実性のもとでのリスク管理(政策)に関する各国の主要モデル、理論的文献を収集、整理した後、環境問題として多くの国では1980年代に対策が採られたアスベスト問題、また食品・食料安全問題として1990年代から2000年代にかけて重要な政策課題であった狂牛病問題に関わる政策過程の資料収集を行い、分析に着手、各事例の政策史の記述・考察を進めている。 政策、および政策過程の国際比較を行うため、アスベスト政策については、Domyung Paek(環境保健・大韓民国/ソウル国立大学公衆衛生大学院・教授)、Rusli Bin Nordin(健康政策/環境保健・マレーシア/モナシュ大学医学部・教授)、Andrew Webster(社会学・英国ヨーク大学社会学部・教授)、Bernard Reber(社会学/生命科学・フランス/パリ第五大学・講師)、並びにRose Campbell(ジャーナリズム学・米国バトラー大学ジャーナリズム学部・准教授)の協力を得て、大韓民国、マレーシア、英・仏・米国の政策過程に関する資料・情報を収集し政策史の記述を進めた。また、狂牛病対策に関しては、Rusli Bin Nordin(同上)、Pierre-Benoit Joly(経済学/政策科学・フランス/国立農業政策研究所・部長)、Rose Campbell(同上)、Andrew Webster(同上)と共に同作業を進めている。特に、これら環境・食品安全に関わるリスク管理(政策)の成功と失敗の諸点について実証的評価を行うため、比較政策学・リスク管理学・リスクコミュニケーション研究の観点から検討を重ねている。
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