研究概要 |
歴史系博物館では様々な歴史資料を展示しているが,資料に関する深い理解を閲覧者に促すことができるような展示手法の構築は,歴史系博物館における重要な検討課題となっている.来館者に伝達すべき情報は多岐に及ぶが,歴史系博物館では,「歴史」を表象するための構成要素として資料を展示していると考えれば,閲覧者の方々が資料閲覧を通して「歴史」を想起することができるか,すなわち「歴史」を可視化することができるかが極めて重要である.本研究では,画像工学におけるイメージング手法とのアナロジに基づいて,歴史という被写体を閲覧者の意識の中に結像させるためのイメージングシステムの構築を目的とし,本年度では歴史資料間における多様な情報の活用手法について検討を行い,博物館における企画展示に実際に応用した. 本年度では,歴史資料として色彩情報と表面光沢情報に富む染織資料にまず着目し,関連情報として錦絵及びはぎれ等を使用した.歴史資料の有する情報を画像技術により取得するため,画像工学の分野での先行研究の中から偏角分光画像システムに着目し,実資料の撮影に適用した.それにより得られた画像から閲覧者に対して異なる照明方向や光源下における資料の見えの変化を予測するための環境を構築した.異なる資料が有する多様な情報を関連付けながら可視化する手段として,データプロジェクタを用いて歴史資料上に情報をオーバーラップして表示する手法,プロジェクタ光を資料照明として使用し,照明光が変化した際の資料の見えをシミュレーションする手法を実際の博物館展示に導入した.実証実験として行った博物館展示におけるアンケート調査の結果から,導入したプロトタイプシステムの有効性とともに新たな検討課題が見出された.今後の検討によって,多様な情報の活用手法と表現手法を改め,歴史像イメージングモデルとしての精度を改善していく予定である.
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