研究概要 |
θ波と呼ばれる4〜8Hzの電気的神経活動はラットやヒトなどの脳内における重要な振動現象として考えられており,そのメカニズムや機能との関連はホットトピックの一つとなっている.従来,θ波はラットなどの海馬からの活動として観察されることが知られていたが,近年,ラットやヒトの研究において海馬以外の皮質などからも観察されることが報告され始めている.また近年の報告により,海馬でのθ波活動の特定の位相に関係して,前頭葉内側面におけるスパイク活動が発生することが報告されており,θ波活動の位相情報が脳内における情報処理過程において重要な役割を果たしていることが考えられる. ヒトにおける従来のθ波に関する研究では,頭皮脳波の測定により前頭正中線上から発生するθ波が注意や記憶などの認知課題時に多く発生することが報告されているとともに,てんかん患者の皮質に直接埋め込んだ電極(皮質脳波)により,空間性認知課題において前頭のみならず頭頂・側頭の複数の皮質からθ波が観察されることが指摘されている.しかしながら,ヒト頭皮上における脳波活動と機能的活動の因果関係に関して疑問視する研究者は多く,頭皮上で観察される脳波活動が情報処理を実施するために必要不可欠な神経活動か否かの結論には未だに至っていない. そこで本研究では,ヒトの頭皮上で観察される脳波のひとつであるθ波活動が,情報処理機能に不可欠な神経活動であることを示すことを目的として,新たな非侵襲脳機能計測システムを構築した.構築したシステムにおいては,記憶課題を遂行中に計測する脳波θ波の任意の位相時にビープ音を発生させることで,記憶処理を妨害することを実現した.今後,構築したシステムを用いて,θ波位相の生理機能の解明を実施する予定である.
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