研究概要 |
本研究では地理情報システム(GIS)を用いた感染症の地図化を国内外のデータを用いて行うことを主目的としている。本年度はインフルエンザを中心に流行の伝播形式について地理学的な解析を行った。 1)日本国内でのインフルエンザ伝播様式の解析 坂井ら(Emerg Infect Dis 10:1822-1826,2004)は、1990年代における日本全体のインフルエンザ流行は西日本〜関東が先行して東北地方は遅れて流行し、大きな抗原性の変化があった場合には一斉に流行ピークに達し流行サイズが大きくなることを明らかにした。本邦では1999年より感染症新法が施行されインフルエンザサーベイランス定点が増えたため本研究では2000年以降の感染症サーベイランスの都道府県別インフルエンザ定点患者数週別データを用いてインフルエンザ伝播の特徴を明らかにした。結果としては、2000年以降、日本国内でインフルエンザ流行ピークは1990年代と同様に西日本または関東で先行し東北地方が遅れる傾向であった。これは本邦では西日本〜関東に人口が集中しているため感染患者数が増えやすく、結果として南から北上するようなコースをとるのではないかと考えられた。しかしながら、抗原性が変わった際の流行伝播の早さと流行の大きさには関連性が見いだせなかったことから、今後2010年あたりをめどに再度評価を行うべきであると考えられた。 2)ヨーロッパでのインフルエンザ伝播形式の解析 European Influenza Surveillance Scheme (EISS)によるヨーロッパ各国のインフルエンザ・サーベイランス・データを元にインフルエンザの伝播形式について解析した。ヨーロッパでは低緯度かつ西海岸から高緯度の大陸内部の東側に流行が移っていく傾向が過去3シーズンに渡って見られた(2002-03,2003-04,2004-05年)。2004-05年データについてピークの遷延をGISの等高線作成手法であるKriging法を用いて地図化した。ヨーロッパでの流行形式も人口の高低や交通移動に左右されると思われ、より人口が多く人の移動も多い西側から人口密度の低い東側諸国へ移る現象がとらえられ、解析結果について英文論文での報告を行った(研究成果発表参照)。 3)薬剤耐性インフルエンザウイルス分布 2005-06年シーズンに抗インフルエンザ剤であるアマンタジン(シンメトレル【○!R】)に対する薬剤耐性A型インフルエンザ株の急増をとらえたため、頻度調査を行った。全国6県(宮城、新潟、山形、群馬、福岡、長崎)で調査を行い、A/H3N2株の市中株耐性頻度は65.3%であった。地域別では新潟(101/101)・群馬(14/14)・山形(18/18)のH3N2は100%Am耐性株で、宮城68.2%(15/22)、長崎42.2%(76/180)、福岡36.8%(7/19)であり、優勢度は地域によって異なっており東日本の耐性頻度が高かった。これまでにない薬剤耐性インフルエンザウイルス株の流行が明らかになった。
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