生きた状態の丸ごとの動物の脳において活動中の神経細胞からホールセル記録をとるための新しい方法の開発を行う。この方法では、細胞外領域に蛍光色素を導入し、2光子励起顕微鏡で脳内の神経細胞を"影"として可視化する。脳内の細胞外領域への蛍光色素の導入方法としては、パッチクランプ電極の内液に蛍光色素を含めておき、僅かな陽圧を電極にかけるだけで良く、細胞の蛍光標識や蛍光色素を前もって注入するなどの前処理を一切必要としない、非常に簡便な方法である。可視化された細胞に記録電極を近づけることで、目的の細胞からホールセル記録を行うことを可能にした。今年度は、これらの実験を行うための2光子励起顕微鏡の構築を行い、麻酔下のマウス大脳および小脳において目的の細胞を可視化してホールセル記録を行う方法の最適化を行った。その結果、大脳新皮質および小脳皮質の投射ニューロンである錐体細胞およびプルキンエ細胞など大きな細胞では約7割の成功率で、小型の介在ニューロンでは約5割の成功率でホールセル記録を行うことが可能となった。また、この方法では大脳皮質錐体細胞や小脳プルキンエ細胞の樹状突起を可視化することも可能であり、これらの樹状突起からホールセル記録を行うことにも成功した。さらに応用として、ホールセル記録だけでなく、電気穿孔によって脳内の単一神経細胞へ蛍光色素やプラスミドDNAを導入することにも成功し、本研究で提案する方法の汎用性を示すことができた。今後は、これらの技術、特にホールセル記録の覚醒時の動物への応用について検討するとともに、蛍光色素や蛍光タンパク質を脳内の単一神経細胞に導入/発現することで、経日イメージングを行う系を確立する。
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