研究概要 |
細胞の力学情報伝達は細胞の生理・病理に深く関わることからそのメカニズムを知ることは重要であるが,力学刺激が実際に細胞内でどのように伝達されているか,またそれによって機能がどのように修飾を受けるのかに関しては未知の部分が多い.本研究では,微細加工技術により細胞底面に発生する力を計測できる実験系を構築し,基質形状により細胞の形態を制御すること,さらに力学刺激が細胞骨格を伝達する経路を求めることを目的とする.微細加工技術を用いて細胞を培養するマトリックス上にPDMSによるマイクロピラーアレイ(高さ10μm,直径3μm,ピラー間ピッチ8μm)を形成し,マイクロピラーのたわみから細胞底面で発生する牽引力を計測するものである.本年度においては,マイクロピラーを30μm×30μmの領域に制限して作成したところマイクロピラーの島上のみに細胞形態を制御することに成功した.また,先端径が2〜3μm程度のガラスのマイクロピペットをマイクロマニピュレータで操作し,特定のマイクロピラーを強制的にたわませる実験を行った.その結果,たわませたマイクロピラーに接続しているストレスファイバの他端のマイクロピラーが連動してたわむ様子が観察された.すなわち,ストレスファイバを通して一つの焦点接着斑からもう一つの焦点接着斑に力学刺激が伝達されていることが明らかとなった.また,ノコダゾール処理により微小管を破壊したところ牽引力は有意に増大した.ストレスファイバ内のミオシン軽鎖がリン酸化されていたことから,微小管はIngberらの提案するtensegrityモデルにおける構造的役割のみでなく生化学的にもストレスファイバの収縮性に関与していることが示された.以上の通り,マイクロピラー基質を用いた実験系により,細胞内力学バランスに果たす骨格構造の役割に関して重要な知見を得ることができた.
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