細胞内へ核酸をデリバリーする技術は、遺伝子や低分子核酸を薬剤として利用する遣伝子治療のための基礎技術となるばかりでなく、未知遺伝子の機能解析のための重要なツールとなる。18年度は、DNAの基板への吸着条件を検討し、肝臓表面への遺伝子デリバリーが電気パルスを組み合わせることにより達成されることを見いだした。 本年度はまず基板表面から細胞内に移行する際、一旦、基板表面から離れて、そして、細胞内に取り込まれるのか、あるいは、基板表面から直接細胞側へ移行するのか、モデルとして培養細胞を用いて確かめた。DNAをプロタミン等ポリカチオンを介してガラス基板に吸着させ、細胞上部から押しつけたときの遣伝子(緑色蛍光タンパク質)発現効率と、DNA吸着側と反対側の面を細胞と密着させたときの遺伝子発現量を比較した。その結果、プロタミンを介してDNAを吸着させた場合では、DNAが吸着している側を細胞に密着させた方が有意に高い発現効率を示した。このことから、プロタミンとDNA複合体が一旦ガラス表面から溶液側に解離して、細胞に取り込まれたものではないことがわかった。一方、市販の遺伝子導入試薬であるリポフェクトアミン2000を介してDNAを吸着させた場合においては、どちら側を細胞に密着させても、遺伝子発現効率には大きな差が認められなかったことから、リポフェクトアミン2000を使用した場合には、DNA複合体が一旦ガラス基板から遊離し、細胞内に取り込まれる可能性もあることがわかった。 マウス肝臓へのDNA導入実験において、電気パルスの最適化を行った。その結果、1V/cm、5あるいは10msec、1Hz、8パルスという条件において、最適な遣伝子(βガラクトシダーゼ)発現が観察され、それ以上の電圧、時間では肝臓に障害が現れることがわかった。一方、それ以下では、発現しないこともわかった。 本年度はDNAのアレイ化も予定していたが、基板からのDNA移行効率の詳細な解析と、電気パルスの条件検討に終始し、具体的なデータを得ることはできなかった。しかし、DNAのアレイ化自体の技術は既に研究室内において確立しているので、本研究は次の大きな研究課題に発展できるだろう。萌芽研究の目的は達成されたと考える。
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