研究概要 |
加齢により、動脈硬化度(動脈スティフネス)は増大し、高血圧や心血管疾患発症のリスクを増加させる。一方、継続的な運動には、加齢による動脈スティフネスの増大を改善させる効果があるが、その効果には個人差が認められる。この個人差が生じる原因には遺伝的な背景が考えられるが、どのような遺伝子の多様性が関与しているかは不明である。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、血管拡張作用や動脈硬化抑制作用を有することから、動脈スティフネスに影響を及ぼす可能性が考えられる。本年度は、動脈スティフネスにおける運動効果の個人差にANP遺伝子の多様性が影響すると仮説を立て、中高齢者の習慣的な運動による動脈スティフネスの改善効果とANPの遺伝子多型との関連を検討した。健康な中高齢者291名の1日の平均身体活動量の中央値を基準として、対象を活動群と非活動群とに分けた。ANP遺伝子多型は664G/A(Val/Met)、2238T/C、1837G/A,708C/TをTaqman法にて判定した。動脈スティフネスの指標である上腕-足首間脈波伝播速度(baPW)は、活動群で有意に低値を示した。すなわち、活動群では動脈スティフネスが低下していることが示された。ANPの664G/A遺伝子多型において、GG型のbaPWおよび血中AN膿度は活動群と非活動群との間に有意な差が認められたが、GA+AA型では差が認められなかった。ANPの2238T/C、1837G/A,708C/T遺伝子多型は、活動群と非活動群のbaPWVに影響しなかった。以上より、ANP遺伝子多型664G/Aは、習慣的な運動による動脈スティフネスの改善効果の個人差に関連している可能性が考えられた。
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