研究概要 |
腰痛の発症率は非常に高く,腰痛症患者に対し様々な治療が行われている中,近年「腰椎安定性」が腰痛マネージメントに関与する因子として注目されている.臨床においても,体幹深部に位置する筋の神経・筋協調性を再教育し腰椎を安定化させる「腰部安定化トレーニング」が盛んに行われているが,生体において体幹深部筋機能が動的な腰椎挙動を制御し得るか否かを検討した研究は少ない.よって,体幹深部筋機能が腰椎の動的安定性に及ぼす影響を明らかにすることを目的に本研究を行った.4名の健常成人男性(年齢23〜26歳)に対し,ぶら下がり状態で腰部・下肢に屈曲-伸展方向への振り子運動を行わせた際の矢状面腰椎挙動をX線シネ撮影装置及び,第10胸椎,第3腰椎,仙椎棘突起上の皮膚表面に貼付した3次元位置センサーにより測定した.試技は「体幹を弛緩させる条件」「腹部を引き込ませる条件」「股関節を屈曲させる条件」の3条件で,各試技の2周期目の角度変化を試技条件間で比較した.3次元位置センサーにより測定した結果から,体幹深部筋群の活動を促進させると予想される「腹部を引き込ませる条件」「股関節を屈曲させる条件」での腰椎挙動は「体幹を弛緩させる条件」に比べ挙動が抑制される傾向を認めたが,抑制されない者も存在し個人差が見られた.X線シネ画像から得られた結果では,腰椎を鮮明に写し出せた画像が少なかったため,各椎間挙動の測定や試技条件間での挙動の比較をすることは困難であった.生体における腰椎の動的安定性を画像所見により評価した研究は少なく,本研究ではX線シネ撮影装置を用いて試みたが,第1腰椎から第1仙椎までを撮影するには撮影範囲が不十分であり限界があった.今後は,腰椎挙動をより正確に評価し得る測定手法を再考した上で,他の測定項目と合わせて腰椎の動的安定性を多角的に検証していく必要があると考える.
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