本研究の全体構想は、動物の身体移動運動を運動学的手法によって定量化・記載することにより、(1)動物の身体-運動-環境の相互関係を探り、(2)それを自然科学教育に役立てることであった。限られた時間を有効に利用するため、動物種は霊長類に限定した。平成19年度は、犬山市の日本モンキーセンターにおいて、平成18年度に開発した動物園における身体運動非侵襲的計測法を用い、霊長類14種の身体運動をビデオで撮影した。得られた映像から、ビデオライブラリーを作成するとともに、身体運動の3次元的復元を試みた。その結果、1)動物園での計測は、多くの種の多様な動きを、自然に近い状態で計測できる利点を持つこと、2)動物園環境でも3次元的計測が可能であること、3)しかし、精度がやや低く、膨大な処理時間を要するといった難点もあること等が明らかになった。ただし、精度については、無標点計測の限界はあるが、校正の工夫や展示エリア内の構造物の予備的計測によって、かなり向上する可能性が示唆された。この種の研究は、これまでは実験室内に限定されており、そのため対象種が限られ、また、動きも本来のものとは異なることが指摘されていた。今回野外での計測が可能になったことで、研究の幅と可能性は大きく広がったと言える。上記研究と平行して、非侵襲的な身体加速度解析法の開発も行った。これは動物に装着した加速度計を用いて運動のモードを推定するものである。実験室環境では十分に有効であることが確認された。無線式であるため、動物の自然な運動を計測できる有効な方法と言える。 上記全体構想の(1)についてはまだ途上であるが、(2)についてはビデオライブラリーと運動の記述によって、ある程度達成できた。萌芽研究としての2年間の取り組みでプロトコルは整ったので、今後、動物の身体-運動-環境の相互関係を探るという全体構想に向けて、対象種を増やして行く必要がある。
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