身近な話題を物理学の「興味の動機付け」だけなく「教材そのもの」として扱うという視点から、本研究は初等高等物理学の教育教材の新しい可能性を探ることを目的とした。 採択された2年間において、身近な話題の一例として球技に注目し、ボールを用いて古典力学の落体運動に関する考察を進めた。ボールの質量、初速度、仰角を与え、ある高さの地点から斜方投射をする際に、物体に空気抵抗による力が速度の1乗もしくは2乗に比例して働く場合、水平方向および鉛直方向の物体の位置は時間の関数としてそれぞれ表すことができる。それぞれの式をマクローリン展開することによって、真空における運動の式の形を残したまま、実際(空気中)における式へと近似・変形することができる。この近似式の妥当性を調べるために、卓球ボール、ソフトテニスボール、硬式テニスボール、軟式野球ボール、ビーチボールなど、大きさや密度の異なる様々な球で実験を行った。 自由落下の予備実験から各ボールの空気抵抗の比例定数が求まり、その結果から空気中における斜方投射の理論的な軌道を計算で描くことができた。この軌道と実際のボールの軌道との比較から、本研究で採用した近似式が現実的に十分適用できることが確認できた。ただし、空気抵抗が速度の1乗に比例するか2乗に比例するかは、ボールの種類によって異なっており、どのようなボールが速度の何乗に比例するのかという話題は今度の課題とした。 身近な現象を理論と実験の両面から比較・検討し、その考察を通じて力学、特に落体の分野の一般的な理解を得るための教材を作成した。今後は実際にこの教材を授業で使用し、その有効性について検討してゆく予定である。
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