研究課題
本研究の目的は、脳神経生理学の研究室を対象にして、文化人類学の方法論によるフィールドワークをおこない、民族誌を作成することにある。研究初年度である本年度は、当該研究における基礎的な情報の収集、研究室全体に対する調査の趣旨説明、およびビデオや録音記録ならびに参与観察に関する民族誌的記録の集積に費やされた。基礎的な資料の収集としては、関連図書文献の収集と分析、ならびに専門家へのインタビュー調査をおこなった。対象になる領域は、脳神経生理学のうち、とくに視覚情報の脳内での処理ネットワーク(網膜-外側膝状体(LGN)-第一次視覚野(V1))を研究するグループが選択された。脳生理学の急性実験の観察、研究室セミナーへの参与観察、教員・大学院生等へのインタビューなどがおこなわれた。実験は大学の研究室で維持運営され、組織内に研究グループが形成されている。脳生理学の実験におけるデータ収集の作業は、時間と資金(予算)が集約的に必要とされるため、研究グループは実験が始まると横断的に協力することが観察される。また、大学・研究室間の連携協力も頻繁におこなわれ、さまざまな規模の学術的会議を通して共有される点で、極めて社会実践性の強い活動であることが明らかになった。調査の開始前に想定していた、実験室における研究者が振る舞う行為の中に、学術生産における社会活動を見出そうとするという当初の本研究の目論見は若干修正され、学会誌への投稿から出版までのプロセス、研究室内のセミナーにおける議論、研究を通しての教育などの、日常的な観察を通して、実験研究者の社会実践のあり方が[文化人類学的解釈という観点からは]より適切に表現されることが明らかになった。
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