本年度は、前年度までの研究成果を踏まえ、実際の天然カンラン石試料を対象として、具体的な年代測定の手法の構築を目指した研究を行った。この過程では、カンラン石を純度良く抽出することがが問題となるが、磁気分離や重液分離、フッ化水素酸によるエッチングなど、様々な試料処理工程の条件を調整することで、十分な純化試料が得られることがわかった。次に、OSLと関係の深いTL信号の諸特性を明らかにした上で、まず、TL年代測定の評価を行った。その結果、カンラン石のルミネッセンス信号には、きわめて強いフェーディング特性があることがわかった。このため、天然カンラン石を対象としたルミネッセンス年代測定には、このフェーディングの影響評価を組み入れないと、実年代よりもかなり若い年代を示す可能性がある。この点を考慮した測定手法としては、カリ長石の場合に用いられるqvalueによる影響評価を援用することが考えられるが、現状では、q値が相当大きいために、実効性の高い年代測定手法とするには問題が大きいこともわかった。実際的な年代測定手法の確立のためには、今後、異なる検出波長、とくに赤色に近い長波長側の検出光の利用や、TLとOSL信号の関連性などについて、さらに研究を深める必要があると考えている。 一方、火山噴出物起源の石英を用いたOSL年代測定に関しては、従来からの励起光・検出光の組み合わせにない測定を行うためには、光計測システムにおける波長分離をかなりの精度で実施する必要のあることがわかってきた。これまで、LEDやキセノンランプ光源と光学フィルターを組み合わせた各種の測定システムを試みてきたが、現状では、今回ターゲットとして想定していた波長領域の検出光を年代測定に応用できるレベルで感知するところにまでは到達できなかった。この原因は、試料とフォトマル検出窓との光学的な位置や、励起光波長特性の分離精度が不十分であったことが大きい。今後、レーザーや光ファイバーの利用などを考慮した新しい計測システムの構築を検討する必要があると考えている。
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