岩手県遠野市上郷町に位置する釜石鉱山日峰坑中央立坑で、2006年11月末から12月初めにかけて1週間、人工雲物理実験を行った。坑頂に設置された2基のファンを稼動させることにより、立坑内に上昇気流を発生させ、坑底の湿った空気が上昇し、坑頂部で雲が視認できた。NaClや硫酸アンモニウムの水溶液の微小水滴として発生させたエアロゾルをアトマイザで噴霧した。アトマイザから発生する粒子のうち粗大なものをカットするため、アトマイザそれぞれにサイクロンを連結した。その後、乾燥させるため、マニホールドで3つをまとめて、シリカゲルを充填した拡散ドライヤーに通した。エアロゾルの粒径分布は、SMPS(Scanning Mobility Particle Sizer)を用いて粒径範囲約0.013〜0.7μm(56チャンネル)を測定した。温度計は、立坑脇にある梯子の踊り場に約5m間隔で、30個設置し、坑底と坑頂での気圧変化を、微気圧計で連続測定した。雲水のサンプラーは、雲底付近から約20m間隔に5個、坑頂に1台設置し、温度計と同様に立坑脇にある踊り場から棒を突き出し、その先にサンプラーを吊下げて雲水を採取した。起源水蒸気となる坑底での水蒸気は、ポンプによって吸引されてきた水蒸気をドライアイスによって冷却凝結し、氷の状態で試験管内にコールドトラップした。採取した雲水および水蒸気のサンプルは、同位体質量分析を用いて、酸素同位体は二酸化炭素を用いた平衡法で分析し、水素同位体は、水素ガスを用いた熱分解法で分析した。データは現在解析中であるが、水蒸気の凝結に伴う同位体分別が確認され、一方、雲水の同位体の高度変化は、理論値とは異なる傾向が見られた。
|