昨年度に引き続いて、岩手県遠野市上郷町に位置する、釜石鉱山日峰中央立坑で、2007年11月初旬、人工雲物理実験を行った。昨年度は、高度10m毎に設置した温度計のデータであり、厚さ40m程度の過飽和度層の高度や厚さを議論するには、鉛直プロファイルの分解能を増やす必要があった。そこで2007年の観測では、1台の熱電対を上下させることによって、立坑内の鉛直温度プロファイルの観測を行った。これにより、これまで懸案であった測器間の較正を考える必要がなく、また熱電対の分解能が高いため、より詳しく過飽和度層の検出が可能となった。観測装置を箱にまとめ、それを係留気球用のウィンチで坑頂から吊り下げ、上下させて鉛直プロファイルを得た。観測項目は、熱電対(二本)及びサーミスタによる温度観測、過飽和度層付近の雲凝結過程を詳細に調べるため、CNカウンター及びOPCによる雲凝結核及び雲粒の観測、ビデオカメラによる雲粒観測、風速計による鉛直速度観測も行った。その結果、過飽和度層付近で凝結が一気におこり、多量の潜熱が放出された結果、気温減率の減少が生じていることを確認できた。また、本実験と詳細雲物理モデルを組み合わせることにより、これまで室内実験中でのみ求められてきた平衡同位体分別係数とは明らかに異なる、実際の雲形成時における「見かけの同位体分別係数」を決定することに成功した。また、現在、大気大循環モデルで用いられている仮定、すなわち、上昇流中で発生した雲水は雲底で直ぐに雲から除去(落下)されて、残された水蒸気から次の雲水が形成されるという仮定は不適切であり、雲底と雲頂の間の雲水と水の同位体の鉛直分布を考慮した、新たなパラメタリゼーションを提案した。
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