微生物群集の構造を把握するために、量的・質的の両面の調査を行った。定量的方法として直接計数法およびコロニー計数法を適用したが、直接計数法は海洋微生物学的研究では常用手段であり、コロニー計数法は、2004年にIMOによって採択された「バラスト水管理条約」に記されている病原性微生物の計数法である。質的方法としては、分子生態学的解析手法の一つであるDGGE法を適用した。さらに、これらの方法でカバーできない微生物の検出方法として、定量的かつ定性的にプランクトンを検出する方法であるQPS法を用いた。 今年度は、日本の修繕ドック入りした商船3隻のバラスト水調査および研究試料収集を行い、解析を行った。また、一昨年度に入手した、ドック入りした商船3隻および、日本-豪州間航路の大型ばら積み船の航海時の試料の解析も行っている。 これらの試料を用い、バラストタンクに保持されている問のバラスト水中の微生物相の変遷を観察し、特にバラスト水の洋上交換の微生物相に与える効果に注目して解析した。DGGE法の結果では、洋上交換を境にして、洋上交換前後で異なる微生物相がクラスターを形成していることが分かった。また、多次元尺度法の解析から、タンク内で保持されている間に微生物相が変遷することが、いずれの航海の試料からも確認できた。直接計数法による検出では、洋上交換後に細菌数の減少が認められたが、コロニー計数法では、反対に洋上交換後にバラストタンク内で細菌が増殖するため、洋上交換効果は不明瞭であった。ただ、病原性微生物は洋上交換後ほとんど検出されなかった。これらの結果から、洋上交換は沿岸域の生物、特に微生物の除去に有効であること、またバラストタンク内で微生物は変遷していることがわかった。平成19年度は、さらに商船から試料を集めるとともに、今年度の試料と併せ解析を進めていく予定である。
|