海洋有機物の動態について、海洋性腐植様物質の海盆スケールの分布及び^<14>C測定に関して新たな知見が得られた。いずれも世界で初めて研究成果であり、この知見を中心に平成18年度の結果を要約する。 海洋溶存有機物の大部分を占める化学的に同定できない化合物群の代表として海洋腐植様物質を選び、その蛍光強度の海盆スケールの分布を明らかにした。分布は表層で低く深度に伴い増加し、所謂栄養塩型を示し、特に見かけの酸素消費量とは最も強い正の相関関係であった。観測の解析結果から、海洋性腐植様物質は有機物の分解に伴い生成すること。表層では光分解すること。海洋内部での生成量は、河川を通して陸域から海洋へ負荷される溶存有機物量や堆積物への有機物の埋没量に匹敵すること。海洋中深層においては、一旦生成すれば、〜900年の時間スケールで安定的に存在すること。等が明らかになった。 沿岸海水中の全脂質について、プロトン核磁気共鳴法及びガスクロマトグラフィー質量分析計等により化学組成を決定し、同一試料の^<14>C年代を決定した。水深5mで得られた全脂質及び溶存有機炭素の^<14>C濃度(^<14>C年代)は、伊勢湾湾奥ではそれぞれ72.32±2.01pMC(2600yr BP)及び93.48±2.03pMC(540yr BP)、相模湾湾口ではそれぞれ41.31±1.64pMC(7100yr BP)及び95.25±2.09pMC(390yr BP)であった。いずれの試料についても全脂質の^<14>C濃度は全有機炭素のそれに比べて低い。この結果は、同一海水中の溶存有機物であっても成分により動態の時間スケールが異なっていることを示唆している。
|