10年程前に、土壌溶液中にアルミニウム化合物の中でも植物毒性が極めて高いケギン型構造を有するアルミニウム13量体が存在することが報告された。そこで、申請者の研究グループは、このアルミニウム13量体の環境化学的研究を展開することを決め、本科学研究補助金に応募した。本研究により以下の事が明らかになった。(1)アルミニウムはpH3付近ではアクアイオンであるが、pHが上昇するにつれて加水分解、重合し、pH4.5から5.5の間で存在できることを明らかにした。 (2)アルミニウムとケイ酸は錯体を生成することが知られている。そこで、アルミニウム13量体の生成に及ぼすケイ酸の影響について調べたところ、極少量のケイ酸がアルミニウム13量体の生成を阻害することがわかった。一方、生成したアルミニウム13量体溶液にケイ酸を添加したところ、アルミニウム13量体は安定に存在した。このことから、土壌溶液中でケギン型アルミニウム13量体が生成するためには、局所的にアルミニウム濃度が高く、ケイ酸濃度が低い条件が必要であると予想される。 (3)微生物の細胞膜モデルとみなすことが出来るキレート樹脂(Chelex-100:イミノジ酢酸基)にケギン型アルミニウム13量体の吸着挙動を調べたところ、その構造を保持して吸着することがわかった。また、このアルミニウム13量体を吸着したキレート樹脂を種々のpH(3-10)の溶液に浸して24時間反応させたところ、以外にもケギん型アルミニウム13量体は安定に存在できることが明らかになった。このことは、一旦生成したケギン型アルミニウム13量体が微生物(あるいはフルボ酸などの腐食物質)表面に吸着されれば、長期間安定に存在できる、あるいは移動できることを意味している。これはアルミニウムの環境動態化学にとってきわめて重要な知見である。
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