大きなサイズのDNAを定量的に解析するためにパルスフィールドゲル電気泳動法を導入しようとしたが、過去に経験のある複数の研究者にたずねた所、きちんとしたデータをとれるようになるまでにかなりの訓練が必要なこと、少し定量性は劣るがSFGE法(static field gel electrophoresis)という別の方法の方が定量的なデータがしかも安定的に得られることを教わりSFGE法を採用した。この方法を使うと培養細胞では5Gy及び20Gyの放射線照射によるDNA二重鎖切断を明確に検出できた。次に2ヶ月令のマウスの脾臓、肝臓、脳のDNAを解析すると肝臓ではある程度の二重鎖切断の存在が示されたが、脾臓と脳ではその量が少なく、フェノール抽出後に見られるDNAの粘度の臓器による差とは明白な違いを示した。念のため5Gyと20GyのX線照射後にDNA切断がみられるかどうかを調べた所、3つの臓器で線量に依存した切断の増加が示された。これらの結果は、DNAの抽出方法の違いによって得られるDNAの長さが変わる可能性を示しており、今後さらなる検討が必要である。またSFGE法を用いて放射線によるDNA二重鎖切断の修復についても調査し始めたが、野性型のマウスでは肝臓と脳で明確な修復がみられるのに対しKu70を欠損したマウスでは修復速度が遅くなっていることかがみられた。脾臓では明確な違いがみられなかったが、これは細胞死に伴うDNA切断の増加と生き残る細胞でのDNA修復が混在しているためではないかと考えられる。今後この点についてもより詳細な解析を進めたい。
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