今日、自然由来の無機ヒ素による井戸水汚染から約5000万(潜在的な患者を含めて)にヒ素による健康障害がアジアと中南米諸国を中心に発生しており、その慢性ヒ素中毒の予防対策と根絶は重要な社会問題である。本研究では、慢性ヒ素中毒の発生原因の井戸水中ヒ素濃度に対応させた0.2-1ppmの無機ヒ素の無毒化に関する基礎研究を実施した。この研究では無機ヒ素の無毒化ヒ素はアルセノシュガー(AsS)とした。その背景は、このヒ素は海藻中に高含有するもので、ヒトは日常的に摂取しているが健康障害の報告は認められていない。 研究成果:Chlorella vulgarisを用いて無機ヒ素をAsSに生物変換する無毒化方法を検討した。無機ヒ素はリンのアナログ物質のため培地中のリン酸の枯渇(低下)により藻体細胎内への取込みが増加した。取込まれた無機ヒ素はメチル化されAsSに変換された。生成したAsSは細胎内に蓄積するより、培地に殆どが排出された。グルコースの添加はC.vulgarisの生育促進、無機ヒ素を有機化する炭素源、AsSを排出するエネルギー源として寄与した。グルコース16mM以上では培養10日で培地中の残留無機ヒ素は2%以下となり、殆どがU1430に変換された。結果的にAsSへの変換量と排出量を増加させた。またAsSへの変換はグルタチオン(GSH)等のチオール化合物により促進され濃度依存的にAsSの排出量が増加した。チオール化合物はAsSへの変換と培地への排出を促進し、独立栄養条件ではGSHの添加でAsS排出量が約18倍向上した。C.vulgarisが排出するAsSは将来的に無機ヒ素の無毒化システムに寄与することを期待している。
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