現在の混合バルクヘテロジャンクションにおいては、薄膜中のホール移動度が電子移動度に比べて低いために、電荷の再結合を誘発してしまうことが報告されている。特にMDMO-PPVをはじめとする可溶化ポリフェニレンビニレン系ポリマーは非晶性であるため、混合薄膜中でのホール輸送においては不利であった。これは、従来法で合成したポリマーは立体規則性が完全にランダムであるためと考えられる。そこで本研究では、新規モノマー設計および重合反応の検討により、完全に立体規則的な結合を有する結晶性MDMO-PPVを合成することを試みた。合成はアルデヒド基とリン酸エステル基を両方持つモノマーを用いて、Horner-Emmons反応によって行った。反応形式上、完全な立体規則性を持ったポリマーが生成すると期待できる。実際、生成したMDMO-PPVは有機溶媒への溶解性が低く、従来のMDMO-PPVとは異なる構造を有していることが示唆された。しかしこれらPPVの立体規則性を定量的に評価する手法はこれまで存在しなかった。そこで我々は、MDMO-PPVの1H-NMRスペクトルを詳細に検討し、また新規なモデル化合物を別途合成することにより、PPVの立体規則性の定量的評価法を新たに開発した。その結果、得られた新規MDMO-PPVは完全に立体規則的な構造を有していることが明らかとなった。ポリマー薄膜のX線回折と紫外可視吸収スペクトルから、立体規則性MDMO-PPVは高い結晶性を有することが確かめられた。さらに、このポリマーの有機薄膜太陽電池への応用について検討した。PCBMとのバルクヘテロジャンクションデバイスを作成し、特性の評価を行った。その結果、立体規則性の低いポリマーに比べて、1.7%から3.1%への変換効率の向上が達成された。空間電荷制限電流測定からのポリマー薄膜のホール移動度は、立体規則性ポリマーにおいて3.1×10-10 m2V-1s-1と従来のポリマーの2.2×10-11 m2V-1s-1に比べて一桁向上していた。また、PCBMとの混合薄膜の表面原子間力顕微鏡(AFM)像は、より微細な混合ドメインの存在を示した。これらの要因が複合した結果、高い立体規則性のMDMO-PPVにおける変換効率の向上につながったものと考えられる。
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