研究概要 |
本研究は,MEMS技術,高精度温度・熱計測技術を駆使して10pWレベルの極微量熱量計測技術を開発し,液中の単一または少数細胞の代謝状態や各種刺激に対する熱応答を計測する技術の開発を目的としている.この技術の実現には,高熱抵抗構造と高い感度を持つ熱流センサと微小熱起電力計測技術の開発が必要である. 本年度は,ガラス基板上にクロム・ニッケル製の薄膜微小熱電対を350対直列に接続したサーモパイルセンサを微細加工技術を用いて制作し,センサ中央部に設置したガラスセル内に入れた酵母菌を試料とし,その増殖過程のサーマルモニタリング試験を行い,装置および手法の評価を行った.結果として,培養液や酵母の生成するアルコールなどの蒸発により,細胞の代謝熱より格段に大きな熱移動が生じること.この対策として,培養液と細胞を流動パラフィンでカバーし,閉鎖系におくことが有効であることが分った.また,試作したサーモパイルセンサを含む試料セルは,3重の恒温容器内に設置し,PID温度制御とペルチェによる温度制御を併用することで,熱的に十分安定した計測環境が構築できることが分った.さらに,ローパスフィルタとローノイズアンプの使用により,サーモパイルで計測した代謝モニタリング信号に含まれるノイズは,約3000個の酵母菌が代謝により発生する熱量のレベルと同等であり,酵母菌の増殖過程に関し,約10000個以上の細胞の代謝熱をモニター可能なことが実験的に示された.
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