今年度は、これまでの予備的な検討に基づき、以下の点について研究を進めた。1)光源強度(試料表面での光密度)の改善(感度改善):赤外顕微鏡の集光光学系を改良し、倒立型配置の全反射プリズム底面の試料位置における赤外光の光密度を上げた。現状光学系の特性とそれに基づく光学シミュレーションによって技術的に実現可能なビーム径を見出した。カセグレン鏡の試作により10倍の改善が実現できるので、同じSNの近接場赤外吸収スペクトルの測定時間を1/100に短縮することができる。この光密度の向上により超解像赤外吸収イメージングの実用化を大きく進めることが可能と考えられる。 2)倒立型赤外顕微鏡と自立型原子間力顕微鏡(AFM)の複合(空間分解能改善):既設赤外顕微鏡の光学系を改造して倒立型顕微鏡とした上で、自立型原子間力顕微鏡(AFM)と複合する。装置全体の電気的・機械的ノイズやドリフトなどを低減し、プリズム底面試料のトポグラフィをナノメータスケールで安定に計測する。湿度が極めて重要なノイズの原因であることを見出した。実験室の湿度を制御する方策を外気取り入れの抑制、除湿器の設置により、特に梅雨時の熱ドリフト及びノイズを1/100以下に低減することに成功した。3)プリズム表面にポリマー薄膜や有機物薄膜など種々の試料を形成し、その超解像分析を進めた。4)近接場チップ増強赤外分光で得られる吸収増強度について、FDTD数値計算プログラムを改良し、全反射配置で、金コートプローブチップが、全反射プリズム底面の試料に近接したときの電場増強及び赤外吸収増強を評価する方法を見出した。これを用いて、今後試料構造やチップ構造の最適化を図るための指針を得た。
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