自然災害では、大規模な風水害や地震がいったん発生すると、死亡情報や被害情報に注目が集まりがちだが、重篤な事故をたどると、「事故の予兆」としての怪我の無い同種体験(ヒヤリ・ハット)を見逃してきたケースもあり、犠牲がでた後に対策を立てるようでは遅いと言わざるを得ない。これらの点をふまえ、過去に大きな被害のあった地域を対象に災害体験調査を行なってきた。また、地図上に災害体験をプロットすることによる、災害体験情報の提供および共有方法についても試みてきた。 今年度はこれまで調査した地域を再精査し、今後の防災活動に必要な情報の抽出方法及び提供方法を検討した。調査地域は大分県別府市、静岡県熱海市、神奈川県箱根町などである。再精査した結果、全地域に共通して、調査後の回収数および体験数は少なかった。これは、自由記述方式であったことと、災害に対する感情的な問題(行政に対する責任など)が考えられた。 次に各調査地域の結果を見ると、地域ごとの地形特性に関係する災害体験が多く寄せられていることが分かった。別府市では強風が、熱海では土砂災害、箱根町では浸水被害を不安視する傾向が多く寄せられていた。参考までに、岩手県釜石市での調査では、強風や津波、土砂、雪害などの体験が多く、山口県宇部市では、高潮災害の体験が多く寄せられていることを付け加えておきたい(申・中根ら、2004)。 また、地形条件にもよるが全体の傾向としては、災害時に避難途中や帰宅途中などの移動中に危険な目に遭った体験が多いようであった(例:冠水した道路を子供を抱えて移動中、側溝の位置が分からず、足を取られそうになった。)。 最後に、体験情報を地図上にプロットした結果、見やすさが向上し、災害や危険に対するイメージを向上させるための一助となりうることが示唆された。
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