生体膜コレステロール組成はER膜で約5mol%と低いが、ゴルジ柵トランス側に向かって上昇し、細胞膜では20-30mol%の高値を示す。本研究では、アクリジンオレンジ(AO)、DAMPと云う古典的な蛍光プローブが従来云われてきた説とは異なる挙動、即ち、コレステロール選択性を示すことを実証する。我々は、膵β細胞のインスリン顆粒を可視化するために弱酸性でオレンジに発色するAOを用いた。AOはインスリン顆粒ではなく神経様小胞に取込まれ、他方、AOと同様にpHプローブとして用いられるDAMPはインスリン顆粒に取込まれた。AOとDAMPが異なるオルガネラに取込まれる機序はコレステロール組成を変えたりポゾーム実験からその組成に依存するとわかり、事実、内分泌細胞培養株MIN6、AtT-20、PC12で神経様小胞膜と顆粒膜のコレステロール組成は前者が20-30mol%、後者が40-45mol%であった。 ところで、細胞内でコレステロールの局在を観察する蛍光プローブとして、植物コレステロールdehydroergosterol(DHE)、モレキュラープローブ社のNBD-cholesterolなどが使われている。コレステロールは3'位以外に余分な水酸基をもつ、あるいは酸化を受けるとすぐに膜から遊離してしまう。DHEは内因性コレステロールに近い動きを示すが、蛍光が弱く細胞内局在の観察には不向きである。本研究では、hydrophobicityが高く、強い蛍光をもつpyrene基(青)、dansyl基(緑)をコレステロールの側鎖に付けた新規プローブを作成した。Pyrene基、dansyl基は抗体でも検出可能で、生細胞のみならず固定した細胞、組織でも細胞内コレステロール分布を観察できる。事実、膵β細胞株MIN6でPyrene基、dansyl基を持つコレステロールはインスリンと共局在した。
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