研究概要 |
慢性化した神経因性疼痛では,脊髄において神経一酸化窒素合成酵素(nNOS)が活性化し,一酸化窒素(NO)の産生が亢進して病態の維持にかかわっていることが明らかにされている。従って,nNOSやNOは神経因性疼痛のマーカー分子として考えることができる。本研究では,陽電子放射断層画像撮影法(PET)によりこれら分子をイメージングし,神経因性疼痛の新たな診断法を開発することを目的としている。本年度は,nNOSに着目し,その特異的阻害剤をPETプローブ化してイメージングに応用することを試みた。まず,nNOS阻害剤として知られる3-Br-7-NIの構造を基に,PETプローブとして^<11>CH_3を導入することを念頭に,3-Br-7-NIの3位ブロモ基をメチル基に変換した化合物,および,クロロに置換し5位にメチル基を導入した化合物を設計し,それぞれ合成した。合成した化合物のnNOS阻害活性を検証したところ,いずれも3-Br-7-NIとほぼ同等の活性を示すことがわかった。続いて,極短寿命放射核である^<11>CH_3を導入する手法を検討した。3位メチル体については対応するスズ体のStille型カップリングによる反応を検討したが,目的とするメチル化体は得られなかった。一方,3-Cl-5-Me体について同様にスズ体によるStille型カップリングを種々の条件により検討したところ,良好な収率でメチル基を導入することができた。そこで,実際に,PET合成装置を用いて高速メチル化法によるnNOS阻害剤のPETプローブ合成を行い,400〜800MBqの比放射能を持つ^<11>CH_3導入プローブを合成することができた。続いて,合成したPETプローブをサルに投与しPETイメージングを行った。その結果,病態のないサルでは脊髄に到達するもののほとんど集積せず,極めて速やかにクリアランスされることがわかった。今後,神経因性疼痛の病態モデルサルを作成し,同様にPETイメージングを行って,脊髄での集積に差異が見られるかどうかを検討する予定である。
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